特色
肺癌
近年、肺癌の新薬が次々と開発され、肺癌治療は目覚しい進歩をとげており、それぞれの患者に最適の治療を正しく選択することによって予後も大きく改善しました。肺癌の治療は癌の種類や遺伝子異常により異なるため、より正確な診断をなるべく短期間で得て、最も正しい治療選択を行う必要があります。当科では、超音波気管支内視鏡検査や局所麻酔下胸腔鏡検査、CTガイド下肺生検やエコーガイド下肺生検を駆使してより正確な診断を短期間で行うことを心がけております。
肺癌の化学療法は2010年以降で大きく変化し、分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬等、癌のタイプに応じてより効果的な抗癌剤を用いることで、よりよい治療を提供することが可能となりました。当科では薬剤部の協力にて使用可能な最新の化学療法をいち早く提供することで、ガイドラインに基づいた集学的個別化治療を実践しています。また、終末期の緩和ケアを要する患者に対しては、緩和ケアチームとの連携のもと、質の高い緩和ケアを提供しています。
間質性肺炎
間質性肺炎とは、呼吸によって酸素と二酸化炭素を交換する場所である肺胞の壁(間質)が厚く硬くなる(線維化)ことで、酸素をうまく取り込めなくなり、息切れや咳嗽を生じ、最終的には呼吸不全へ至る病気です。また、徐々に進行することが多いですが、感冒等を契機に急激に病状が悪化する急性増悪という病態を呈することがあり、ひとたび起こすと死亡率が非常に高く、救命できても呼吸機能の低下は避けられず、QOLを大きく損なってしまいます。さらに、間質性肺炎は肺癌を合併することが多いことも知られています。
あまり馴染みのない病気と思われがちですが、いくつかある間質性肺炎の種類の中でも代表的なものである特発性肺線維症(IPF)は、日本人有病率が1万人に1人程度(0.01%)とされています。しかし、CT検査の進歩・普及により、無症状でも間質性肺炎の前駆病変と考えられている間質性肺病変(interstitial lung abnormality;ILA)を発見することができるようになり、これは人口の2~10%に認められるとされています。
間質性肺炎は現時点では完治させる治療法は残念ながら存在していないため、より早期に発見し早期から治療介入を行い、進行を抑えたり急性増悪を予防することが肝要です。当科では血液検査・CT検査・気管支鏡検査を速やかに実施し、必要があれば呼吸器外科にて胸腔鏡下肺生検を行い、その結果を元に呼吸器内科・呼吸器外科・放射線科・病理診断科と合同で多分野集学的検討(MDD)診断を行って正確に診断を行うことを心がけております。
治療については早期から積極的に抗線維化薬の導入を行い病気の進行を抑えるとともに、疾患・治療に対する正しい理解を得ていただくために、可能な限り入院の下に十分な説明を行っています。慢性的に呼吸状態が悪化した場合は、在宅酸素療法(HOT)を導入したり、呼吸リハビリテーションや栄養指導を併用しています。また、急性増悪を生じた場合は、ステロイド・人工呼吸器管理だけでなく、抗凝固療法や急性血液浄化療法など、最新の治療を駆使することで、この致死的な病態を乗り越えるべく最大限の努力をしております。
急性呼吸不全
何らかの原因によって動脈血中の酸素分圧が60mmHg未満になる病態を呼吸不全といい、そのうち比較的短い期間で急速に起こってきた場合を急性呼吸不全と呼びます。急性呼吸不全の原因疾患には様々なものがありますが、重症肺炎やARDS、間質性肺炎急性増悪、COPD急性増悪、気胸などが代表的です。当科ではこれら急性呼吸不全に対して積極的に受け入れており、HCUでの集学的治療を行っています。
当科の特徴として、患者さんの病態や呼吸不全の程度に応じて呼吸管理を適切に使い分けていることが挙げられます。気管挿管を要する侵襲的人工呼吸管理だけでなく、非侵襲的陽圧換気(NPPV)や高流量鼻カニュラ酸素療法(HFNC)を使い分け、さらにマスクの形状も使い分けることで、より患者さんに適した治療を提供することを心がけています。
COPD
肺気腫・慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入することで生じる肺の炎症性疾患で、近年世界的に患者数が増加の一途をたどっており問題視されている病気です。
症状としては徐々に進行する労作時の呼吸困難や慢性的な咳・痰がみられますが、これらの症状に乏しいこともあり、気づいたときにはかなり進行してしまっている患者さんも多く見受けられます。
肺病変を元に戻す方法はないため、早期診断・早期介入が必要です。当科ではCTや呼吸機能検査を速やかに施行し状態を診断しております。また、CT画像を特殊な画像解析ソフト(VINCENTⓇFUJIFILM社)を用いて再構成し、気腫性変化を赤色で示し、病状を定量的に評価して、患者さんにも病状をより理解していただくことで、病気についての教育を十分に行うこととしております。
治療においては、ここ数年で吸入薬が進歩したことで、患者さんの呼吸状態や生活リズムに合わせた薬を選択することが可能となりました。そのため、患者さんと十分な情報共有を行い、最も適した治療法を提供することを心がけています。
また、COPDは呼吸器感染症や吸入刺激により急激に呼吸状態が悪化することがあります。その場合、酸素が取り込みにくくなるだけでなく、二酸化炭素を吐き出しにくくなり、意識障害を伴うCO2ナルコーシスという重症呼吸不全を呈することがあります。当科ではこのようなCOPD増悪に対しても集学的治療を行い、救命に尽力しています。
気管支喘息
気管支喘息は空気の通り道となる気管支が狭くなり、「ゼーゼー」「ヒューヒュー」といった喘鳴を伴う発作性の息苦しさを感じる病気です。吸入薬の進歩・普及により発作で入院することはかなり少なくなりましたが、依然として吸入薬のみでは効きにくい難治性喘息となることもあります。また、最近では子どもの時には無かったのに大人になってから発症する成人喘息の患者さんも増えています。
気管支喘息は治療開始が遅れると呼吸機能の改善が不十分となってしまうため、早期に診断し治療を開始することが重要となります。当科では血液検査やCT検査、呼吸機能検査に加え、気道における好酸球性炎症を評価する呼気一酸化窒素濃度(FeNO)測定を行い、総合的に評価することで早期診断することを心がけています。
発作を起こさないようにするためには、継続した治療が必要となりますが、そのためには病気や治療についての理解が必要となります。当科では十分に患者さんに説明した上で、患者さんの呼吸状態や生活リズムに合わせた薬を選択し、一緒に病気と向き合っていくよう努めています。また、近隣薬局の薬剤師さんとも共同して吸入薬の細かい指導を行っています。
難治性喘息に対しても十分な治療を行うことができています。特に近年では生物学的製剤の進歩がめざましく、これまでステロイドの内服が必要であった患者さんも、生物学的製剤を使用することで内服ステロイドが不要となるケースが増えてきました。当科でも患者さんの病態に応じて生物学的製剤を使い分けています。また、当科では難治性喘息の新しい治療である気管支サーモプラスティも行うことがあります。これら進歩した治療法を組み合わせることで、難治性喘息治療に取り組んでおります。
肺感染症
肺炎は日本人の死因で常に上位を占めており、適切な治療が遅れると命の危険がある病気です。当科では細菌性肺炎だけでなく、ウイルス、真菌(カビ)、非結核性抗酸菌など、様々な原因による肺炎を治療しています。原因となる病原体に対して適切な治療薬を選択するだけでなく、重症肺炎に対してはHCUにて集学的治療を行い、救命に尽力しています。また、肺炎が拡がり肺の表面を覆っている胸膜へ及ぶと、肺の周りに膿が貯まってしまう膿胸という病態を呈することがあります。この病態に対しては、呼吸器外科と協力して局所麻酔下胸腔鏡を用いることで、早期に膿を除去する取り組みを行っています。
また、医療社会学的にも大きな問題となっている高齢者の誤嚥性肺炎の治療においては、入院初期から栄養サポートチーム(NST)が介入し、リハビリテーション科と共同で嚥下機能評価・嚥下訓練を行い、地域病院や訪問看護部との連携のもと、早期の転院や退院を目指しています。
気管支鏡検査
気管支鏡は直径3~6mmの柔軟性のあるファイバースコープで、肺内の組織や細胞、洗浄液などの検体を採取し、肺の病気を診断する目的で使用します。
当科での気管支鏡検査の特徴として、特殊な画像解析ソフト(VINCENTⓇFUJIFILM社)で事前にCT画像を再構成して仮想内視鏡画像を構築し、病変への到達経路をシミュレーションした上で、直径3mmの極細径気管支鏡(BF-MP290FⓇOLYMPUS社)と気管支内超音波断層法(EBUS)を組み合わせ、より正確に標的病変へ到達させ末梢小型病変に対する診断精度を高めています。
最近では新型内視鏡システム(CV-1500ⓇOLYMPUS社)でのTXIやRDIといった新しい画像処理技術を用いることで、より検査の精度や安全性を高めております。また、気管や気管支に接する肺外のリンパ節を採取する場合、超音波プローブが先端についたやや太い専用の気管支鏡を用いて、超音波画像で病変を直接見ながら生検針を刺し、吸引生検を行うEBUS-TBNAを行いますが、当科では病変の場所や疾患に応じて生検針を使い分けることで診断精度を高めています。
気管支サーモプラスティ
気管支喘息の薬物治療は大きく進歩しましたが、それでもコントロール困難な難治性喘息への治療オプションとして、当科では気管支サーモプラスティを行うことができます。
気管支サーモプラスティは、喘息のために異常に肥厚してしまった気道平滑筋に対して65℃の熱を加えることで、気道平滑筋を薄くして気管支が狭くなるのを防ぐ治療法です。気管支鏡を用いて気管支内を直接見ながら、電極付きのカテーテルを挿入して気道平滑筋を温めていきます。
一度に全ての気管支を温めることはできないので、治療は3回に分けて行います。1回の治療時間は60分程度ですが、治療直後に喘息症状が一時的に増悪する可能性があるために各回ともに数日間の入院が必要です。3回の治療は3週間以上の間隔を空けて行う必要があるため、全体の治療期間は3か月程度となります。
この治療を行うことで気管支喘息が治癒するわけではありませんが、喘息発作の頻度が減少したり、治療薬の減量を行うことができることが報告されており、難治性喘息に対する有用な治療法と考えられています。
局所麻酔下胸腔鏡検査
局所麻酔下胸腔鏡検査は内視鏡検査であり、直径5-6mmの内視鏡(胸腔鏡)を、肺表面を覆う膜(臓側胸膜)と胸壁内面を覆う膜(壁側胸膜)に囲まれた空間である胸腔に挿入し、内部の体液(胸水)の除去や内腔の観察、細胞や組織採取などを行う検査です。胸腔内の病変を直視下で確認しながら検体採取ができるため診断率が高くなり、胸水貯留を来す疾患の原因診断が可能となります。
局所麻酔で胸の皮膚を一部麻酔し皮膚を1-2cm程度切開して胸腔鏡を内部に挿入するため、全身麻酔は不要であり、創部もわずかで済みます。
局所麻酔下胸腔鏡検査は主に肺癌や悪性胸膜中皮腫などの悪性病変の診断目的に施行することが多いですが、当科では、膿胸などの感染症に対して呼吸器外科と協力して早期に膿を除去し肺の拡張を補助することで、これまで長期入院が必要とされていた膿胸の治療期間を大幅に短縮することができるようになりました。